ニュージャージーで最初に春の訪れを告げる花は桜ではなかった。
木の根元などに小さく薄紫色の花を咲かせていたのはクロッカス。 まだ色のない景色の中、そこだけほんわりと春色に色づいているのを ストローラーに息子を入れてお散歩している最中に見つけて 長かった冬がようやく終わるのを知りどれだけ嬉しかったか。 ところで、この花の名前を知ったのは、はるか昔小学校1年生のときだったと思う。 国語の教科書の中に、『ぼくにげちゃうよ』という可愛らしいうさぎの話があった。 うさぎの坊やが、お母さんうさぎに 「ぼくにげちゃうよ」と言えば お母さんうさぎは坊やに「あなたが逃げるのなら、お母さんは追いかけますよ」と言う。 坊やが、「僕は逃げて雲になっちゃうよ」と言えば お母さんは「あなたが雲になるのなら、私は風になって、あなたを私の方へ吹き戻すわよ」と言う。 そうやって、坊やとお母さんの追いかけっこが繰り返される中に 「じゃあ僕は逃げてクロッカスの花の中に隠れちゃうよ」と坊やが言い、 お母さんが「じゃあ私はお庭に出て行ってあなたを見つけますよ」というようなくだりがあり それは可愛らしいクロッカスのお花の挿絵があったのだ。 小学校1年生の初めての教科書のにおいと、教室の中に沸き立つ新鮮さを今でも覚えている。 そんな小さい心ながらに、お母さんと坊やの追いかけっこはほほ笑ましくて、大好きなお話だった。 当時は教科書の音読が宿題だったけれど、私の母もその音読を聞くのがとても嬉しそうだった。 そうして知ったクロッカスの花に、 自分の息子が生まれて初めての春に出会えるとは当時は想像もしなかった。 お母さんとぼうやの果てしのない愛らしい追いかけっこを思い出しながら クロッカスの花から伝えてもらった春だった。
by akikogood
| 2009-05-09 06:46
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